Please be aware of the latest developments in Thomas' release schedule for music and books.

「What the Silence Carried(feat. Club of Tone)」– 2025年9月12日リリース

What the silence carried

空白が意味するのは、必ずしも「無」ではない。そこには静かで深い「存在」が宿る。
「What the Silence Carried」は、まさにそのような静寂を扱った作品だ。

トーマス・アレクサンダー・コルベとClub of Tone(通常はポップやダンス的なエネルギーで知られるユニット)は、ここで全く異なる側面を見せている。時間がゆっくりと流れ、音が呼吸するような、繊細で内向的な音世界が広がる。

冒頭は、儚げなシンセのレイヤーと、柔らかいトランジェントで構成された極めて静謐なアンビエント。すぐには何も起こらず、ディレイや残響は空間を埋めるためではなく、音が「そこにある」ことを許すためにある。絵画の淡い筆致のように、一音一音が丁寧に置かれている。

やがてアイナ・アゲナの歌声が現れる。語り手としてではなく、静けさの奥から浮かび上がる「思考」として。彼女のヴォーカルは抑制され、親密で、前へ出ることを拒むように空間の中を漂う。言葉はあるが、それはメッセージではなく、音色そのもの。伝えるためではなく、「感じる」ための声。

曲構成にドラマチックな展開はない。ビートも転調もなく、ただ呼吸のように時間が流れる。それが、この楽曲の美しさだ。「記憶」と「間(ま)」の論理で進む音楽。アンビエントという形式でありながら、感情の核を静かに揺さぶる。

Club of Toneがこのような形で参加するのは新鮮だ。通常のエネルギーやビートを抑え、静けさの中に存在感をにじませている。

わかりやすい展開やフックを求めるリスナーには、戸惑いがあるかもしれない。だが、耳を澄まし、雑音を排し、この曲と向き合ったとき、そこに残るのは「印象」ではなく「記憶」だ。これは、感情を押しつけるのではなく、寄り添う音楽。雰囲気が記憶になる、そんな体験がここにある。

リリース日:2025年9月12日